歴史

はじめに

石川県文化財保存修復工房は、藩政時代から息づく石川を中心とする北陸の文化資産を良好な状態で保存し永く後世に引き継ぐことを目的として、平成9年(1997)年に石川県立美術館の付属施設として、美術館に隣接した旧石川県庁出羽町分室の2階に開設しました。そして、文化財の保存修復、調査・研究、修復技術者の育成にも取り組んできました。また県内のみならず他県からの修復依頼も受け、国・県・市などの指定文化財修復にも携わり、北陸における文化財保存修復の拠点としての実績を重ねてきました。

しかし、この建物は大学施設の一部であり、建築後すでに半世紀を迎えようとしていたため、老朽化に伴う移転が懸案事項となっていました。美術館本体がこの周辺一帯の本多の森公園の中にあり、修復工房は既存の建物を使用するか、あるいは新設するとしても、様々な規制の中での建設といった制約の中で、平成28(2016)年4月、美術館の広坂別館に隣接して新設オープンしました。

修復工房は石川県が設置し美術館の管理(館長が工房長を兼務)のもとで、(一財)石川県文化財保存修復協会が修復作業に携わっています。

修復工房開設の背景

文化財の保存修復施設は、国内では東京・京都・奈良・福岡にある国立博物館に設置されていますが、地方自治体としては石川県が初めてです。主として装潢部門の文化財の修復を手がけて20年の節目を迎えました。はじめに石川県が修復工房を設立するに至った経緯を紹介します。当県には、石川県立美術館の前身である石川県美術館が昭和34(1959)年に開館し、国宝《色絵雉香炉》(野々村仁清作)や古九谷に代表される古美術や、近現代の工芸作品を主に所蔵する地方公立美術館として、作品の保存と公開の役割を果たしてきました。また、所蔵品とともに県内寺社をはじめとする所蔵者から指定文化財を中心とした貴重な作品をご寄託いただき、文化財保存と公開のさらなる充実を図ってきました。昭和58(1983)年には、時代の要請を受けて美術館の大型化を行い、現在の美術館が移転開館しました。美術館機能の充実に伴い、バックヤードのスペースを使用して、所蔵品や寄託品の中から石川県指定文化財の修復を始めました。修復にあたっては、作品が所在する場所へ修復技術者が足を運び作業を行うことで、作品の環境を変えず、移動のリスクを避け、美術館が責任を持って管理する体制ができました。

新築移転と常時公開

現在の施設は延床面積533㎡、構造は鉄筋コンクリート造平屋建で、次のような機能の充実を行いました。表具部門では大型作品の修理に対応可能となるように、2室ある修復室の分割壁を可動式として効率的に使用できるようにしました。また、新たに漆工芸品修復室を新設しました。当地は漆の伝統工芸や伝統産業が盛んであり、そうした伝統から古美術作品も多く伝来しています。以前より漆工芸品についても要望に応じて修復を行っていましたが、そうした現状を踏まえての新設でした。

最後に

平成29(2017)年4月には修復工房設立20周年の節目として「よみがえった文化財」展を開催し、これまでに修復を手がけた主要作品を網羅する意義深い展覧会となりました。地方公共団体で初めての修復工房を持つ美術館として、歴史を重ねてきましたが、最も重要なことは、文化財がここに伝わっている、修復すべきものがある、という事実です。そうした環境のもとで技術者たちは努力を重ね確実に技術を向上させ、昨今の修復依頼の現状からすれば、その認知度は確かなものとなっています。修復協会のメンバーと美術館の学芸スタッフがそれぞれの専門性を生かしながら、修復工房を持つ石川県立美術館ならではの活動を一層充実させていくことが真の美術館の姿ではないかと思います。